たけうちんぐ最新情報


⬛︎ たけうちんぐと申します。ライターと映像作家をやっております。 プロフィールはこちらをご覧ください。
⬛︎ 文章・撮影などのご依頼・ご相談はこちらのメールアドレスまでお気軽にお問合せください。takeuching0912@gmail.com
⬛︎ YouTubeチャンネルはこちら→たけうちんぐチャンネル/Twitterアカウントはこちら→

2014年3月1日土曜日

伝説が幕を開ける。 - BABYMETAL@日本武道館「赤い夜」



伝説が幕を開ける。

"伝説"なんてフィクションの話だと思っていた。現実では決して体験できない、きっと一生のうちに手に掴めないもの。ありえないと思いつつも、この儚い夢にすぎない地表でずっと待ち望んでいた。
それが今日、目の前に現れた。この目で見た。キツネサインをしていた。赤と黒の衣装を身に包んだ、14才と16才の女の子3人だった。
その子たちはメタルレジスタンスの名のもとに、"伝説"を始めていた。

それを目撃したのは日本武道館。"超カオス"な熱狂の2日間を体験した。




まずは1日目、『赤い夜 LEGEND"巨大コルセット祭り"~天下一メタル武道会ファイナル~』。

日本武道館の周辺は紅と漆黒の色彩で埋め尽くされていた。どこもかしこもBABYMETALのTシャツばかり。赤と黒が乱立する光景なんてBABYMETALのライブかディスクユニオンくらいだろう。YUIMETALとMOAMETALのコスプレをしている女の子の姿もあった。BABYから大人まで、日本人から外国人まであらゆる人々で溢れ返っていた。

この日随一の異常な光景が入場口にあった。
入場待ちをする人々全員がコルセットをしている。 "巨大コルセット祭り"と銘打つだけあり、観客全員に配られたコルセットの着用が義務付けられていた。『BABYMETAL』のロゴがプリントされたコルセットを首に巻き、入場列からお祭りはすでに始まっていた。
コルセットを巻いた客達の光景により、武道館が巨大な整形外科に見えた。その整形外科には、診察室の代わりにステージ中央には円形の巨大な魔法陣が用意され、医者の代わりに骸骨の全身タイツを着たスタッフたちがアリーナの通路を歩き回っていた。レントゲンかよ。目の前に立ちはだかるBABYMETALの神話的なアートワーク。それを余すことなく反映させた魔法陣のデザインに胸が踊る。

開演前に『BABYMETAL』の旗を掲げながら通路を歩き回る骸骨たち。中央の天井にぶら下げられたモニターに彼らの姿が度々映り、入場する観客に目がけてキツネサインを掲げる。観客がキツネサインで返すと歓声が上がる。骸骨たちはアリーナ席の各ブロックのど真ん前でヘドバンをし、それにならって大勢の観客がヘドバン。「オイッ!オイッ!」といったコールが巻き起こり、まだライブが始まってもいないのに会場はすでにヒートアップ。ライブが始まってしまったら武道館は一体どうなってしまうんだろう。

やがて会場が真っ暗になる。
ゴオオオオと地鳴りのような歓声が武道館を揺らす。心が震えるのはその歓声のせいか、はたまた。暗くなった会場はモニターの光に占領され、そこに貫禄たっぷりの骸骨が現れる。これはレントゲンではなく、BABYMETALの生みの親であり仕掛人のあの方。

「きっつねだお~。メタルの神・キツネ様からの"お告げ"を届けるメッセンジャー、KOBAMETAL DEATH!」

とことん低い声で自己紹介するのは、プロデューサー・KOBAMETAL。決してメディアでその素性を現さない、謎めいた存在。昨年6月の目黒・鹿鳴館のオープニングムービーで初めてその動く姿を見たが、相変わらず怪しい。映像の中で、かつて鹿鳴館で行われた"コルセット祭り"を巨大な日本武道館に場所を移した、"巨大コルセット祭り"の開催を宣言する。

「前回の"コルセット祭り"に参加してくれた者はいるかな?(歓声が上がる)いいね!いいね!この“巨大コルセット祭り”はBABYMETAL、そして諸君にとっての"天下一メタル武道会ファイナル"でもある。」

KOBAMETALがギターの神、ベースの神、ドラムの神の降臨を告げると、円を描くようにそれぞれの位置に立つ神々の姿がライトで照らされる。
「漆黒の闇が紅に染まる時、キツネ様はBABYMETALに更なるパワーを与えるため、メタルの神バンドを降臨させるのである……。」
メタルを司る神・キツネ様に見守れた武道館に、まだ主役たちの姿はない。

「ひとたび音が鳴り出した瞬間から止まること無く、まるで組曲のごとく奏で続けるのだ。すなわち、MCもなければアンコールもない。諸君が首にコルセットを付けた瞬間からすでにバトルは始まっているのである。そう、破滅へ向かって……。」

X JAPANを匂わす「破滅へ向かって」というセリフに、笑い混じりの歓声が上がる。「バトル」という言葉から、魔法陣の描かれた円形のステージがだんだんコロッセウムに見えてくる。

「諸君、首の準備はできているか?(大きな歓声が上がる)もう一度聞く。首の準備はできているか?(もっと大きな歓声が上がる)それでは"巨大コルセット祭り"、はっじまっるよ~。」

こうして陽気にはじまるBABYMETALの熱狂の2日間。その宣言通り、MCは一切ない。そしてノンストップの怒濤の展開が約束されたはずだった。
ところが、1日目の終盤にとんでもないアクシデントが発生してしまう。
ノンストップのはずがストップする。その瞬間歓声が悲鳴に変わり、突然の出来事に心臓が止まりそうになった。

冒頭、「キ~ツ~ネ~♪」とどこからともなく歌声が聴こえてくる。音が鳴り出すと魔法陣の輪郭が赤くライトアップされ、3人が三角形を描くようにそれぞれの位置に登場する。ちらほら客席に見えるサイリウムはすべて赤で、ステージもとことん赤。
なるほど、『赤い夜』とはこのことか。中央の円形ステージに繋がる花道を通り、SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALがマントタオルを脱ぎながらゆっくりと歩み寄る。
そしてドラムが鳴ると閃光が3人を照らし、その瞬間から真っ暗闇の武道館天井の日の丸国旗がはっきりと浮かび上がる。

想像以上の壮大なスケールではじまる。ここはアトラクションなのだろうか。ライブでも映画でも演劇でもない。いまだかつて味わったことのない文化に触れたかのように、一体今何を観ているのか分からなくなる。それほどの異世界に放り出される。まさに“狐につままれた”。こうして、『メギツネ』から伝説の幕は上がった。

ひとしきり「それっそれっそれっそれっ♪」と楽しい掛け声が続いた後、今度は「いま何時~!?」と客席が叫ぶ時間へ。『ド・キ・ド・キ☆モーニング』は魔法陣のステージで歌われるといつもと違い、特別に思えてくる。クールを装うSU-METALの表情が「っよね!?」のセリフが放たれる瞬間に破壊され、そこにいる全員がコロッと笑顔に変わる。
SU-METALが先ほど「女は女優よ」と歌っていたが、まさにそれ。作り込まれた世界観に3人が没頭していく。が、時折見せるMOAMETALの笑顔が良い意味で作為的なステージを破綻させる。その愛嬌のある笑顔は、観る者の頬を自然と緩ませてくる。

前回の『LEGEND"1997"』で初披露となった『ギミチョコ!!』がはじまり、スタンディングのアリーナ席に異変が起きる。各ブロックがそれぞれ5本の指で掻き回されたように暴れ狂い始める。
MOAMETAL&YUIMETALの「ずきゅん!」「どきゅん!」「ずきゅん!」「どきゅん!」の掛け合いに、およそ1万人が声を合わせて参加する。間奏になると中央から3人が外側の花道を走り、ギターソロが終わる頃に中央に小走りで集合するシンメトリーの美しさといったら。

『いいね!』でレーザービームが目に飛び込んでくる。武道館の特性を活かし、四方八方360度に行き届く。レーザーが互いにクロスし、まるで大きなチェック柄を描いているようで美しい。無邪気に「ぶーどうかんっ!」とコール&レスポンスを促すSU-METALのあどけない表情が可愛くて、YUIMETAL&MOAMETALの「キツネだお!」の合図が愛おしすぎる。
武道館は一気にキツネサインとヘドバンで埋め尽くされる。そこからシャウト、くるくると回転、むくむくと成長するような振り付けでYUIMETALとMOAMETALが煽るものだから、スタンドの座席を取っ払いたい衝動にかられる。このまま1階へ飛び降りて暴れたい。なんで2階席を選んだのか、今になって後悔する。一連の動きがかっこいいったらありゃしない。おもしろくてどこか狂ってる。
魔法陣のデザイン、神々の演奏、ステージ演出、3人のダンスすべてが徹底して世界観を構築し、一斉に飛び込んでくる。たった一回でその情報量が収まり切らないので、一気に醸し出されるのがある意味もったいない。この1分間を1時間、いや1日、10日、100日に分けて味わいたい。そんなかけがえのない時間が続いていく。

『Catch me if you can』のイントロでは神々のギター、ベース、ドラムソロが次々と披露される。「あー、この時間ってSU-METALとYUIMETALとMOAMETALが水飲んだりしているんだろうな」って休憩している姿を想像して楽しむとか、そんな余地は一切ない。"バックバンド"という表現とは無縁の主役感で超絶プレイが次々と繰り出され、それに見入ってしまうのだ。
3人がステージに再び姿を現し、カウントが終わるとこれまた一斉にアリーナ席が激しく荒れ狂う。「とっておきの場所を発見♪」とMOAMETALがSU-METALの股下をくぐり抜け、ピースサインのまま一旦静止する場面はいつだってハイライト。「右左、きょろきょろり」のあたりから、なんとSU-METALの立つステージが浮き上がる。YUIMETALとMOAMETALがその下で「やだドキドキ止まんなーい!」と抱き合う。洒落たステージ演出に歓声が上がる。いつもならYUIMETALとMOAMETALがSU-METALの肩を軽く叩くが、今日はその代わりにSU-METALの浮き上がったステージの床を叩くのがシュールに見えた。
サビになると今度はYUIMETALとMOAMETALの立つステージが回転を始める。その"かくれんぼ"は360度、東西南北の客席に見つかっている。小柄の2人がくるくる回り始め、メリーゴーラウンドのようでなんとも可愛らしい。まさか日本武道館が遊園地になるとは思ってもみなかった。SU-METALが中央後方、YUIMETALがMOAMETALが左右前方で描くいつものトライアングルのフォーメーションが、この日ばかりはSU-METALがもう一段階上にいるので縦に三角形を描く。この曲がこの日の演出をずっと待ち焦がれていたかのように、「ぐるぐるかくれんぼ」という歌詞通りの光景が広がっている。

その後は『ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト』『悪夢の輪舞曲』『おねだり大作戦』『4の歌』と止まる事なく演奏は続いていく。
『紅月-アカツキ-』では「紅月だーーーっ!!!」とSU-METALが叫ぶとステージが回転し始め、その周りに何本もの火柱が立ち上がる。曲の世界観を十二分に発揮した究極のエンターテイメントで、そのステージはSF、サスペンス、コメディ、アクションところころと表情を変え、たった一回のライブが一体何百本分の映画になるのだろうか。

SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALはそれぞれフィクションの中に飛び込んでいる。そこにはさくら学院の卒業生だった中元すず香も、当時メンバーだった水野由結も、菊地最愛の姿もない。『BABYMETAL DEATH』で自己紹介の「です!」が「DEATH!」にしか聞こえなくなれば、それはもう"BABYMETAL"という虚構に、偶像に、全身が取り込まれてしまっているのだろう。
その被害者たちが今ここで一斉にキツネサインを掲げ、「DEATH!DEATH!DEATH!DEATH!」と叫んでいる。徹底的に作り上げられた世界。しかし、それが崩れる瞬間が訪れてしまう。
ずっと続いた演奏が止まる。
この後のアクシデントなんて、この楽しい時間に誰も予想していなかっただろう。
『ヘドバンギャー!!』のイントロが鳴り出す。当日の曲順から、参戦済みライブでの経験からか、ライブがクライマックスを迎えたのが分かる。最後の力を振り絞るかのように、SU-METALの歌声にますます力が入る。どれほど激しい動きをしても安定感を保ち、美声を聴かせるそのプロ意識。これには鳥肌で応えるしかない。そこに言葉は要らない。MCで弁護する隙もなくパフォーマンスの一本勝負で挑む姿に、エンターテイメントの美学すら感じてしまう。
「ヘドバンギャーーーッ!!!」とSU-METALが叫び、YUIMETALとMOAMETALがそれぞれ外側の花道に東西に分かれて歩いていく。

ここで事件が起きた。

間奏でスタンド席を見上げたまま花道を歩いて「ヘドバン!ヘドバン!」のコールを促すYUIMETALが、西南側の花道で足を滑らせた。そのままスルッと高さ2~3mと思われるステージから落下したのだ。

「えっ!??」

信じられない光景だった。パフォーマンス中に突然姿を消したYUIMETAL。花道と花道の間のわずかな空間に、吸い込まれるように落ちてしまった。それでも鳴り止まずに続く演奏と、YUIMETALと同じく花道を歩いて北東側のスタンド席を促すMOAMETALの「ヘドバン!」コール。いつもなら2人の声が、たった1人の「ヘドバン!」になる。僕がいる南側の客席は目の前の出来事に唖然とし、コールすら返せない。しかし、恐らく反対側にいるメンバーと客席はこの異変に気付いていない。SU-METALも中央に立っているので気付かず、YUIMETALの落下した側の南西アリーナ席、スタンド席のファンは突然の非常事態にキツネサインを降ろしていく。やがて女性スタッフがタオルを持って慌てた様子で駆けつける。

ちょ、ちょ、ちょっと待って。
あたたたたーたーたーたたたどころではない。恐ろしい事態に背筋が凍りつき、言葉が出ない。
YUIMETALが落ちた場所は黒い幕で覆われていて、客席からその姿が全く見えない。安否が分からない。心臓が止まりそうになる。やがてバクバクと鳴り出したが、その鼓動は先ほどまでの興奮とはまったく別の理由。心臓に悪い落ち方だった。演出じゃないことは確かだった。気が気じゃなくなり、その後の『ヘドバンギャー!!』が水の中に浸るように、どこか遠くで鳴っているようにしか感じられなかった。

演奏は続いている。間奏が終わっても、ステージ中央に集まったのはSU-METALとMOAMETALのみ。2人は明らかに異変が起きた事に気付いたように見えたが、そのまま歌とダンスを完走させる。その時のMOAMETALの表情は忘れられない。何が起きたか分からないまま、なぜかいなくなったYUIMETALの分まで命を削るように踊っている。髪の毛を引っ張る。腕を突き出して飛び跳ねる。凄まじい気迫に思えた。演奏が終わると、KOBAMETALのオープニングでの宣言が破られるように音が完全に鳴り止む。ライブはしばらく沈黙し、会場は真っ暗闇に包まれる。

「YUIちゃーーーん!!!」「YUIちゃん大丈夫!??」「YUIちゃん!!!」「YUIちゃーーーーー ん!!!」

四方八方がYUIMETALを呼ぶ声で埋め尽くされる。男性客の雄叫びと女性客の悲痛な叫び。僕はあまりの状況にただ呆然と立ち尽くし、声も上げられない。止まってしまった演奏が自分の心臓のようで、真っ暗になった会場が自分の視界でしかなかった。演奏が止んだことで周囲の騒いでいる声がはっきりと聞き取れる。

「えっ、落ちたの?」「YUIちゃん落ちたの?」「えっ……マジで……?」

西南側の客席でも、見る方向が違えば落ちる瞬間は見えなかったのかも知れない。観客が次第に事実を共有していく。長い沈黙の間、その暗闇のせいでますます不安感が積もっていく。

ライブが中止になる。そう思った。小さい女の子があんなに高いステージから落下するなんて、もはや大惨事でしかない。自分が今体感している、それも熱い気持ちで見つめているBABYMETALのライブでこんな事が起きるなんて……。
黒い幕の中は一体どうなっているのか。少し背伸びして覗こうとしても何も見えず、ただひたすら待つしかない。大丈夫だろうか。ケガしていないか。最悪な想像をしたくない。もし、本当にもし、と一瞬脳裏を過った時、自分の命を引き換えにしてもYUIMETALが無事でいてほしい。「神様……」と願い、気がつけば片手でキツネサインをし、親指と中指と薬指をギュッと締め付けていた。

『ヘドバンギャー!!』が終わり、次の曲が始まるまでの2分近く沈黙が長く感じた。先ほどまで散らばっていたYUIMETALの名を叫ぶ声がやがて集まり、「YUIMETAL!YUIMETAL!YUIMETAL!YUIMETAL!」のコールに変わる。僕はいまだ呆然と立ち尽くし、全く何も声を上げられない。ただキツネサインをした手が震えている。その感覚すら薄れる。頭の中が真っ白になる。血の気が引いていた。『赤い夜』なのに、僕の身体は赤を完全に失っていた。
今まで完璧な世界観を作り上げていたBABYMETALのフィクションが、一気にノンフィクションに変わってしまった。

しかし……。絶望感に浸ったその瞬間、あのピアノのイントロが鳴り出す。

「なぜ、人は傷つけ合うの?」あの声が聴こえてくる。「もう、今以上、これ以上、君の泣き顔は見たくないよ。」あらかじめ用意されているナレーションが再生される。今まさに僕は泣き顔でいる。周囲で歓声が上がるが、ライブが再開した喜びよりも恐怖のほうが勝っている。
「もしも、もしも、この後ステージに2人しか現れなかったら……」
悪い想像で凍えていた。だが…。
「だから、私たちは立ち上がる。夢の中でキツネさんが教えてくれた。思いっきり、かけっこをするといいよって。」
"立ち上がる"。この定番のセリフがその後の展開を暗示する。
「ウォール・オブ・デス。ホントの勇気見せてくれたら、ホントのメタル、教えてあげるよ。イジメ、ダメ、ゼッタイ。」
SU-METALがステージ中央に現れる。「ルルル~ルルル~♪」と歌い始めると、この日最も大きな歓声が会場全体を包み込む。
そこに現れたのは、BABYMETAL。 3人だった。
YUIMETALとMOAMETALはステージ正面にある外側の花道で左右から互いに歩き、クラウチングスタートの姿勢に取り掛かる。ブロックごとに別れたアリーナ席はところどころでウォール・オブ・デスの準備がはじまる。

そうだ、これがBABYMETALなんだ。

『イジメ、ダメ、ゼッタイ』がはじまる。

"立ち上がる"その言葉通り、YUIMETALはステージの転落から立ち上がった。ゆっくり歩くその姿を見たとき、安堵感で膝から崩れ落ちそうになった。何か叫んだが、何を叫んだのか全く覚えていない。あの高さから落ちたのに無事だなんて、何に感謝すればいいのか。その相手が分かれば、土下座レベルで頭を下げたい。

神々の演奏する音が鳴り出すと、円形の巨大な魔法陣を取り囲むように火炎が吹き出す。SU-METALが2人に目で合図する。YUIMETALは何事も無かったかのように健気に、少し陽気に見える。凛とした表情でSU-METALに視線を配る。MOAMETALは今にも泣きそうな表情で俯いている。

ステージに復帰したYUIMETALは、『イジメ、ダメ、ゼッタイ』のCDジャケットのようにしか見えなかった。炎の中から復活する、まるで映画のダークヒロインのような格好良さだった。





さて、ここからが怒涛の展開だ。絶望は希望に変わり、アクシデントはレジェンドと化す。作り込まれた世界観を破壊するかのように、フィクションではなくノンフィクションのパフォーマンスにただ泣き叫ぶしかない。

SU-METALが叫び、YUIMETALとMOAMETALが炎が両脇で上がる花道の中を全力疾走で駆け抜ける。それと同時に、アリーナ席の各ブロックで同時多発的にウォール・オブ・デスが発生する。
ところが、今度はMOAMETALが転んでしまう。ウォール・オブ・デスの最中に足を滑らせて転んでも、またすぐに立ち上がる。その走る姿が僕の涙をさらに加速させる。

さくら学院のブログ『学院日誌』やインタビューなどによると、YUIMETALとMOAMETALは普段から偶然声を合わせることが多いらしい。黙っていても意思の疎通ができているという、双子のように身長が近い2人がまるで背丈を合わせるように転び合う。その表情は14才・アイドルという身分を完全に超越し、堂々とステージに立つ姿が往年のロックスターのごとくかっこいい。ここで"天下一メタル武道会ファイナル"のタイトルを思い出す。彼女たちは一体何と戦っているのか。それは紛れもなく、自分自身だ。

「イジメっていうよりも自分と戦う感じがして、自分との戦いを意識して歌っていたらだんだん歌詞が理解できるようになりました。」

この日の物販限定で販売されたDVDのインタビューで、MOAMETALは『イジメ、ダメ、ゼッタイ』についてこう語っていた。YUIMETALの転落、MOAMETAL自身の転倒のアクシデントからの復帰は、それぞれの自分との戦いでしかない。BABYMETALの世界観がまるで現実に追いついていく様に、ただ鳥肌で応えるしか術はない。
曲の中盤で3人が向かい合う。

「痛み、感じて、ずっと、ひとり、こころ、気づかないふり。もう、逃げない。イジメ、ダメ、ゼッタイ。」

その言葉たちはまるで、この日のために用意されていたかのように感じた。自分自身にそれぞれ痛みを感じたが、ステージに再び戻ってきたBABYMETAL。彼女たちは逃げる気配がない。ひたすら立ち向かっていく。決意のように、意志のように、モニターに映し出される3人の眼光は鋭い。MOAMETALは転んだせいか、足がブルブル震えている。今にも泣き出しそうな彼女の顔を見るYUIMETALの表情は険しい。互いに言葉を通わせないが、その表情から意思の疎通を感じずにはいられない。
そして、その後繰り出されるYUIMETALとMOAMETALのバトルシーン。今度は演出として豪快に転び合う2人の姿に、もう涙しか出ない。気がつけば頰を伝い、涙が武道館の地面に流れ落ちた。正直、もう歓声も拳も上げられないでいる。ただ"地蔵"と化してしまい、『ヘドバンギャー!!』から『イジメ、ダメ、ゼッタイ』に至るまでの衝撃を受け身で体感していた。

SU-METALの歌声がいまだかつてないほど情熱に溢れているように感じた。
ステージ周りから吹き出す火柱より、客席の熱気より、中央にいる3人の眼差しが一番熱い。ステージから聴こえる音はますます重みを増し、厚さを増していく。耳が4つ、8つ、16つになったのか。身体が2つ、4つ、8つになったのか。感受性が何倍にも膨れ上がり、己自身の感覚が研ぎ澄まされていく。

ずっと日本武道館のステージに立つことが夢だったSU-METAL。転落・転倒しながらも無事にステージに帰ってきたYUIMETALとMOAMETAL。(『イジメ、ダメ、ゼッタイ』のフレーズ)「傷ついて 傷ついて 傷だらけになる」を乗り越えて、曲中で頼もしく親指を掲げて歌われる「君を守るから」に、嘘偽りのない絆が見えた。3人が向かい合い、笑顔でアイコンタクトする姿が眩しい。一斉に天井を目がけて祈りのポーズをした時、ここで叶わない夢などないんじゃないかとすら希望を抱いた。
演奏が終わると、モニターに『PUT YOUR CORSET UP!!』の文字。およそ1万人が首に巻いていたコルセットを外し、SU-METALが「PUT YOUR CORSET UP‼」と発した後に空に向けて掲げ、それに応えるようにBABYMETALの3人が四方に通路のある外側の花道を東西南北、それぞれの方向のスタンド席やアリーナ席のファンへ応えるために歩き回る。
そこでMOAMETALがYUIMETALに手を差し伸べ、優しく引っ張る姿が見えた。 2人の友情が美しく、ここでまた涙が溢れてしまった。

「We are!!!」 「BABYMETAL!!!」「We are!!!」 「BABYMETAL!!!」「We are!!!」 「BABYMETAL!!!」

何度も何度もコールを続ける3人。 そして、「スリー、ツー、ワンッ!」の合図でジャンプし、魔法陣の周囲が火柱を立てる。神バンドがかき鳴らすように弾き続けていたギター、ベース、ドラムの演奏がそれと同時に鳴り止む。
手に持ったコルセットを投げる3人。そこにケガなく無事に完遂した歓びすら感じる。

「See You!!!」

最後はそのたった一言を残し、ステージを去る3人。かっこよすぎる。こうして、BABYMETALの日本武道館の一日目は終了した。

劇的な展開だった。恐ろしい沈黙と暗闇の中、「本日の公演はこれにて……」という不吉なアナウンスが来るのを恐れた。その不安感を打ち消すように、あのピアノとあのセリフが始まり、そして3人の姿が現れた。
再びステージに立ち上がったYUIMETALの後ろ姿は、涙で滲んでいた。炎の中に突き落とされ、一度いなくなったはずの主人公が最後に劇的なタイミングで蘇ったような。昔観たアニメや映画の中のヒーローをすべて体現していた。こうしたアクシデントが3人のパフォーマンスをさらに熱いものにした。
何度思い出しても鳥肌が立つ。
YUIMETALとMOAMETALが大事に至らなくて本当によかった。最後に残ったのは爽快感しかない。BABYMETALのまた新たな一面を垣間みれた。史上最年少の日本武道館への出演でこの復活劇。まさに"伝説"と呼ぶにふさわしいライブで受けた胸の鼓動は、その後も止まることなく眠るまで続いている。なんなら、帰宅後全く寝付けなかった。
最後のストーリームービーでの「メタルマスターから与えられし数々の過酷な試練を乗り越え、遂にBABYMETALは"天下一メタル武道会"で勝利し、ホントのメタルを手に入れた」といったナレーションは、偶然にもすべてを把握していた。彼女たちは本当に過酷な試練を乗り越えていた。

「ホントのメタルは鋼鉄魂(メタルボール)へと姿を変え、まるでドラゴンが昇天するかの如く音速のスピードで駆け上がり、天空を紅に染めた。」

『ドラゴンボール』のように幾つものボールが集まり、それがドラゴンのシルエットの中に消えていく。そして、「メタルレジスタンスへの最終章に向け、カウントダウンは始まった……」と、初めて観たライブ『LEGEND"Z"』を思い出させるような終焉を匂わせるナレーションが続く。

円形ステージ奥の階段が赤く照らされ、そこを3人がゆっくりと登っていく。そして明日のライブの告知。
次は『黒い夜 LEGEND"DOOMSDAY"~召喚の儀~』。
「運命の時まで残された時間は、あとわずか……」度重なる"終わり"を予感させる言葉の数々。彼女たちが迎える最終章とは一体何か、そしてそこで何が召喚されるというのか。
最後に現れる"BABYMETAL"の文字と、一瞬映し出される3体の棺桶。それが意味するものとは、一体何なのだろうか。

数々の謎を残したまま、『赤い夜』が終わりを迎えた。


2014年3月1日「赤い夜 LEGEND"巨大コルセット祭り" ~天下一メタル武道会ファイナル~」@日本武道館
〈セットリスト〉
01. メギツネ
02. ド・キ・ド・キ☆モーニング
03. ギミチョコ!!
04. いいね!
05. Catch me if you can
06. ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト
07. 悪夢の輪舞曲
08. おねだり大作戦
09. 4の歌
10. 紅月 -アカツキ-
11. BABYMETAL DEATH
12. ヘドバンギャー!!
13. イジメ、ダメ、ゼッタイ


4 件のコメント:

  1.  ありがとう!行けなかった私に臨場感をこれでもかと叩き込んでくれて。逆に年を気にせず行けば良かった

    との後悔もあり。ありがとう!

    返信削除
  2. いいね10000回!

    返信削除
  3. ありがとう! 感動した!!

    返信削除
  4. 素晴らしい文章でお伝えいただき、ありがとうございました。

    返信削除