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2011年10月29日土曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第1話「死ねー!!」~

"かまってちゃん"はこの世の至るところに存在する。

誰かから突然電話がかかってくる。
「ちょっと聞いてよ」と話し始める。用事があるわけでもなく、人は電話をかける。
誰かに話を聞いてほしい。自分のことを分かってほしい。存在を知ってほしい。
生き物はすべて、生まれて、死ぬ。食べて、寝て、繋がって、それだけで十分なはずだ。それでも、自己顕示欲というものはなぜか日々拡大していき、時代とともにそれが反映される場所が多くなった。
ブログ、ミクシィ、ツイッター。
すべては一人でいるときに更新され、 話す相手がいなくとも、そのときの気持ちや状況がインターネット上に流れていく。それが問題になったり、事件になったり。出会いがあったり、距離が生まれたり。
すべては"かまってちゃん"であるからこそ、人と人との間には絆ができたり、亀裂が入ったりもするだろう。
母親を求めて子どもが大声で訴えかけるように、赤ん坊が泣くように。
愛がなければ生命は誕生しないし、殺人も起きない。愛ゆえにかまってほしく、かまわれないとき、人は暴発してしまう。
人類は皆、少なからずは"かまってちゃん"であるはずだ。
そんな人間の普遍的な性質を体現するバンドがいた。
それが"神聖かまってちゃん"だ。

「なにそれ?し、ん、せ、い?かまってちゃん?」
2009年3月。友人からの電話で初めてそのバンド名を聞かされたとき、鼻で笑った。なんて奇をてらった名前なんだ。
だけど、その友人が日本のインディーバンドを薦めることは今までになかった。
「このボーカルの"の子"って奴、俺はすごい奴やと思ってるんやけど」
友人自身もかまってちゃんなんだろう。自分の大好きなバンドを薦めてくるなんて。
だけど、Perfumeを誰も口にしたことがない頃から絶賛し、映画から音楽、文学から漫画まで、幅広く日本のカルチャーのアンテナが鋭い友人のバトンは、正しいはず。きっちり受け取りたいと思った。
電話中、YOUTUBEで検索した。
すると『夕方のピアノ PV 神聖かまってちゃん』という動画が出てきた。

「死ねよ佐藤 おまえのために 死ねよ佐藤 きさまのために おまえはいつでもやってくる しらない嘘をついて 死ね 死ね 死ね 死ねー」



なんなんだこれは。
この歌っている人は"佐藤"と一体何があったのだ。変声期前の子どもような甲高い声で、延々と「死ねー!!」と連呼していた。ここまで率直に「死ね」という言葉が何度も繰り返される曲は初めて聴いた。
そして、夕暮れの空をずっと映している中に「死ね」が響くことにセンスを感じた。
「あっ…その曲から聴いてしもたん?俺的には『ロックンロールは鳴り止まないっ』から聴いてほしかったんやけど…」
友人としては、『夕方のピアノ』を聴くと僕に引かれると思ったらしい。残念ながら、惹かれてしまった。
夕暮れを映すカメラが大きく揺れ、感情を表しているように思った。終盤、ボーカルの叫び声がリコーダーの音に変わる。途中にランドセルを背負った登校もしくは下校中の小学生の後ろ姿の映像が挿入されており、この曲は小学生時代の何かを思い出させてくれた。
「死ね」なんて最近、口に出したことない。
だけど小学生の頃、何度か口に出した覚えがある。
給食袋を蹴ってくる奴。いきなりボールをぶつけてくる奴。順番を抜かす奴。意味もなくケンカをふっかけてくる奴。
そして、お母さん。
単なる憤りからくる「死ね」もあれば、愛ゆえに、愛を求めるがあまりに感情的になって「死ね」と口にした覚えがある。実際、そこまで真剣に死ねだなんて思っていない。だからこそ言葉だけが鋭く尖り、相手にはぶつかってしまう。
そのとき、『夕方のピアノ』のような夕暮れ空が広がっていたかも知れない。遠くで誰かがリコーダーの練習をしていたかも知れない。そして下校時間、音楽室から流れてくるピアノの音を思い出した。
この曲は暴力的でもなく、攻撃性を帯びているわけではない。
小学生の頃を思い出し、切なくなってしまった。
途端に、この楽曲を作った"神聖かまってちゃん"が気になって仕方なかった。

「これはおもしろい!やばいな!」と友人に言い、他の楽曲もYOUTUBEにPVが上がっているため、電話を切って片っ端から再生した。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』のPVを見た。
なんなんだ、この歌詞の乗せ方と、初期衝動を蘇らせるかっこよさは。
往年のロックミュージシャンの映像と誰かの目のアップとが交互に挿入されている映像。それだけで忘れかけていた何かを目覚めさせるような演出になっており、手作り感溢れ、素人感満載の映像なのに、訴えかけてくるパワーが半端ない。
ほとんどが何かしらの権利に違反している映像だ。勝手に流すとYOUTUBEで削除されるようなものなのに、これらの映像でなければ決して表現できないものが目に飛び込んできた。
このバンド、一体何なんだ?
インターネットで検索をする。『子供ノノ聖域』という自主的に作ったサイトが見つかり、すべてが表示されるのに何分間かかかるほど、重い。必要以上にYOUTUBEの動画を埋め込み、半ば暴力的なレイアウトになっている。
画像を見つけた。
これが、初めて見た神聖かまってちゃんの画像だった。


メンバーは4人。
幼稚園からの同級生であるの子、mono、ちばぎん。後からメンバー募集で加入したみさこ。曲、そしてPVはすべて、この後ろでヘナッとした表情で突っ立っている男、の子が制作しているらしい。
後日、彼らのことを教えてくれた友人から電話がかかってきた。
そこで気になることを尋ねた。
「の子って、何才?」

彼は2才だった。
とはいえ、実際の年齢ではない。友人が彼らを知ったのは、2ちゃんねるの『ニュー速』と呼ばれるスレッドで、の子が『2才』というコテハン(固定ハンドルネーム)で書き込みを続けていたのを目撃したからだ。
『バンド板は本当低脳しかいないよね』
などとケンカを売ったスレッド名を立ち上げ、そこで自ら制作した曲のPVを貼り付けては批判・中傷を受けていた。無理もない。ケンカを売れば買われるのは当然のことだ。
友人は生粋の2ちゃんねらーであり、当然、売られたケンカを買うような目線で2才を見ていた。しかし、開いてみたその楽曲が予想外にキャッチーで、自分でも不思議なくらいに魅力にとりつかれていったという。
「その頃、ほとんどが否定側にいたのに、どんどん肯定側が増えていく光景が面白かった」
友人が話すのは、インターネット上の話。
そもそも、2ちゃんねるはイメージとしては少し恐い場所だ。好きなバンドのスレッドを見ては、悪口や批判ばかり。心を痛めるのを覚悟で覗くことが多かった。2才はそんな場所で宣伝をし、自己顕示の塊のように書き込みを続けていた。
まさに「かまってちゃん」だった。
だけど彼のバンドが「神聖かまってちゃん」。
それについては誰も批判できない。納得できるバンド名だったのだ。

「キチガイのフリした凡人で何が悪い!!
僕は特別になりたいんだ!
他になにもできないし何もないし結婚もできないし人生なんてなにもない!
音楽がなかったら本当になーんもないんだ!!!!」

2才はまるで本当に2才ではないかと思うほど、赤ん坊が泣いて母親に訴えかけるように、見えない相手にかまってもらおうとしていた。
空しさや、悲しみさえ感じさせる。
バカなのかも知れないし、イタイのかも知れない。
だけど、気持ちがむき出しなその書き込みの数々には、心を打つものも少なくはなかった。
「いまやライブハウスに行くような若者は少ない」
これには激しく同意した。
かねてからライブを観たり撮影するためにライブハウスに行くことが多い僕は、この事実には何度も直面した。
ほんとに一部の限られた人間しかいない。
好奇心旺盛なのか、貪欲なのか、はたまた日常に不満で、自分に付加価値が欲しいのか、ライブハウスに行くような人は非常に珍しい人種だと思っていた。
そこで2才はひとつの方法を提示していた。

「あっじゃあインターネットを使ったアイディアを一つだすよ!☆
僕はライブをする時家から出るのが本当にめんどくさいと思ってたんだ!
だから家からインターネットを通じてライブ感をいかに伝えられるかを考えた!!

今の時代の子供は自分からライブハウスに行くやつなんてそうはいないでしょ!??!?!?!
ロッキン音ジャパン祭りとか行くとか好きな彼氏のバンド見に行くとかなら別だけどさぁwwwwwwwwwwwwwwwwww
僕みたいな誰にも興味をもたれない人間がいかにオナニー現場をみせれっるかをこの蛆虫脳みそが考えたんだよ

色々ぐーぐるってリアル動画配信サービスとかを見つけたんだよ!
みんあここで家からライブすればいいんじゃないかな!!?!?!?!

これならバンドメンバーいなくても一人でできるよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あとは己の技量次第じゃhない!!?
この前僕がためしにライブするよってなのって自分の曲でライブやったんだけど音ズレが激しいらしいからちょっとむずかしかったよ!!
知らない人につまんねって言われた!!傷ついた
でもうまく使えばうまい事できると思うよ☆^@^
ここだよ☆http://www.stickam.jp/

これはまだニコニコ生放送やUSTREAMが一般化されていない頃、2008/05/27の書き込み。
彼はリアルタイム動画配信を薦め、Stickamから、やがてPeercastというマイナーな配信サービスで顔を出し、スタジオ練習風景を流し、歌を歌い、ライブをした。
これが、神聖かまってちゃんの歴史の始まりだった。

宅録で制作した楽曲のみならず、宣伝もすべて自宅から発信していく。
「家でライブ」 というその方法に興味を持った。
やがて彼は家から飛び出し、ノートパソコンを片手に配信を始めた。
YOUTUBEには、彼が新宿や渋谷でゲリラライブを敢行し、注意に来た警察官ともみ合う配信動画が上がっている。
警察官との会話の合間にも「DO,DA~♪」と歌っていた。
危ないし、おかしい。
だけど、すごくおもしろいよ、この人。

ライブの予定を見ると、一ヶ月に一度のペースでしか行なっていない様子だった。
情報を得ようとmixiで検索しても、『神聖かまってちゃん』コミュニティの参加人数は120人程度。PVがこれほどあり、『ロックンロールは鳴り止まないっ』の再生回数は1万回を超えているのに。それほど知られていないのだろうか。
早く彼らの姿を肉眼で見たい。
そう思い、4月23日の下北沢屋根裏のライブに足を運んだ。

仕事帰り、予約をせずに向かった。屋根裏の受付で目当てのバンド名を店員に尋ねられた。
「"神聖かまってちゃん"です…」
正直、恥ずかしかった。
周囲にはいかにもバンドマンな雰囲気の人たちがいる中、これほどまで一般的なバンドマンのイメージとはかけ離れたバンド名はない。あと30分で神聖かまってちゃんのライブが始まるらしい。受付の用紙を見ると、彼ら目当てで来た人は僕を入れて3人。人気、ない!そしてライブハウスに入ると、人、少ない!
自分を含めて7・8人くらいしかいないライブハウスは久しぶりに見た。
神聖かまってちゃんの時間が迫ってきても、恐らく対バンのバンドマンだと思われる人が何人か入ってくる程度。純粋なお客さんが少ない分、恐くなった。演奏後、拍手でも歓声でも、何かしらリアクションする人が少ない分、心細かった。
そんなことを思っていると、ライブハウスには似つかわしくない風貌の少年が入ってきた。
白シャツを着ており、どこにでもいそうな雰囲気の男の子だった。
開いたノートパソコンを片手に持ち、その顔はパソコンに光に照らされている。
そして彼は笑いながらパソコンに向かって喋っていた。
彼が神聖かまってちゃんの"の子"である。

まるで少年のように小柄なの子は、前のバンドの演奏が終わると、客席からステージに上がり、独り言をつぶやいているようにパソコンに向かって話していた。今までにライブハウスで見たことのない、異様な光景だった。
mono、ちばぎん、みさこもステージに上がり、セッティングをしている。の子はギターのセッティング以上に、パソコンに気を取られてずっと夢中で会話していた。
まるでパソコンが友達のように見えた。
音を鳴らし、確認する。
さあ、間もなく神聖かまってちゃんのライブが始まる。あの曲はやってくれるのか、どんなライブになるのか、何を見せてくれるのか。
まるで10代の頃に戻ったかのように、初めての神聖かまってちゃんのライブにドキドキしていた。
の子は突然服を脱ぎ始めた。
神聖かまってちゃんのライブが遂に始まった。

「裸になって何が悪い!!!」

の子は全裸だった。


~続く~

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